板金加工:アーク溶接について
本記事では、板金加工における「アーク溶接」についてご紹介しています。ぜひご覧ください。
アーク溶接は「アーク(arc)」と「溶接」で構成されています。「溶接」については先の技術コラムで紹介していますように、母材を溶融させて接合する方法となり、この母材を溶融させる方法に「アーク」を用いているのがアーク溶接と言う事になります。先ず、アーク溶接に分類される色々な接合方法の基本である「アーク」の発生方法と特徴について説明します。
下図に示すのは「アーク」の発生原理を示したもので、アークは低電圧・大電流時に起きる放電現象でアークとはプラズマの一種で、気体が電離したものです。ここでいう電離とは高温により原子から一部又は全部の電子(熱電子)が飛び出している状態で、電子が電離する事をイオン化或いはプラズマ化などといい、電離した電子が電荷を運ぶためアーク及びプラズマは電気を通す伝導体となっています。アーク溶接のアークは気化した金属では無くシールドガスがプラズマ状態となった物になります。
この電極間に発生するアークは一般的にアーク柱と呼ばれ、この中の温度はアーク柱の中心部で約16,000℃、アーク柱の外周部で約10,000℃と言われています。母材の融点は鉄で約1,540℃、銅が1,080℃、アルミニウムが660℃ですから、アークの熱により簡単に母材を溶かす事ができます。アーク溶接ではこのアークの高温を利用し母材を溶接する接合技術となります。
アーク溶接では溶極式溶接と非溶極式溶接が有ります。溶極式溶接は被覆アーク溶接や半自動溶接の様に電極に通電し母材と短絡させることで母材と電極を溶かし接合するもので、消耗する電極の材質は母材とほぼ同じ成分のものを使用します。もう一つの非溶極式溶接の代表的な溶接方法がTIG溶接で、電極からのアーク放電により母材を加熱・溶融し母材同士の共付け溶接を行う場合や、部品間のスキマがある場合や脚長を必要とする場合には、溶加棒(フィラーワイヤー)を手送りで供給し溶接する加工方法です。
下表にアーク溶接における溶極式溶接と非溶極式溶接の比較表を示します。溶接速度については溶極式溶接の方が比較的速い速度で加工が出来ます。また、非溶極式では電極に融点が3407℃のタングステンを使用しますので鉄よりも接合が難しいアルミニウムやマグネシウムなどの非鉄系の材料も接合する事が可能となります。
加工時の現象としては、溶極式溶接ではスパッタやヒュームが多く発生し、また、溶接作業時の清音性が悪く作業環境への配慮が必要ですが、非溶極式溶接ではスパッタやヒュームの発生が少なく溶接作業時の騒音の発生もほとんどなく作業環境面では優位性があると言えます。
ランニングコストを考えると、非溶極式溶接は、作業者に高いスキルが要求されることや、シールドガスも高価なアルゴンガスを使用するなどがあり溶極式溶接と比較すると不利になりますが、その反面、非溶極式溶接でなければ加工が出来ないケースも有るため製品の材質や要求品質に合わせた施工方法の選択が出来る事が必要と考えます。
大気(空気)中で溶接加工を行う上で特に注意が必要なのがシールドガスの設定です。大気(空気)中にある80%の窒素や20%の酸素等が溶融金属触れる事で「ブローホール」等の溶接ビードの異常が発生します。また、シールドガスによる雰囲気をアークの周辺に作る事によりアークを安定させる機能を持っているためアーク溶接を行う上で重要な要素となります。シールドガスがアーク(プラズマ)の安定・維持に寄与する事について、下図に示します。実作業でアーク溶接中のシールドガスは一般的に15l/min程度を流して溶接を行いますが、シールドガスの流量が少なく(シールドガス切れ状態)なるとアークの状態が不安定となり、正常な溶接ビードを置く事ができなくなります。
下表は溶接する母材材質とアーク溶接方法の組合せと使用するシールドガスの選定を示したものです。表の中で網掛けがある所は接合不可もしくは加工しない、もしくは選定しない組合せとなります。また○印は一般的な選定、●印は特殊用途とされています。
非溶極式溶接であるTIG溶接はアルゴン(Ar)、ヘリウム(He)、やAr+He混合ガスやAr+H₂混合ガス等を選定します。TIG溶接を行う場合に酸素(O₂)を含むシールドガスを使用すると、タングステン電極が酸化し、タングステンの本来の融点である三千数百℃から千数百℃まで急激に低下し、本来非消耗である電極を溶かしてしまうからです。また、先に述べた混合ガスを使用する場合には非鉄系の材料を対象としていますし、Ar+H₂混合ガスについてはステンレス鋼(SUS)とニッケル(Ni)及びその合金に限られてきます。
溶極式溶接には、MAG(Metal Active Gas)溶接、MIG(Metal Inert Gas)溶接の溶接法が有り、それぞれに使用するシールドガスの種類が異なります。MAG溶接では100%炭酸ガス(CO₂)あるいは、Ar+20%CO₂の混合ガス(マグガス)が多く使用されます。一般的にはMAG溶接ではステンレス材の溶接は行いませんが、溶接ワイヤーにフラックスが入ったものを使う事で溶接が可能となります。また、MIG溶接ではステンレス材を含む非鉄系の材料を溶接する場合に用いられます。MIG溶接ではTIG溶接と同様に不活性ガスを使用した溶接を溶極式溶接で行います、この為シールドガスにはArガスやAr+He混合ガスを使用し溶接を行います。非鉄系の材料の表面には酸化被膜が形成されており、これがアークの安定化を図るためO₂やCO₂の添加が必要としません。
アーク溶接を行う上で共通する内容について説明してきました。次回以降で各溶接方法について説明をしていきたいと思います。
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