板金加工: 曲げ加工に必要な荷重計算も掲載しておりますので、ぜひご覧ください!
本記事でも前記事に引き続き、曲げ加工について説明していきます。
お客様から頂いた図面をもとに、展開を行いブランク加工、仕上げを経て図面寸法に合わせた曲げ加工を行います。曲げ加工時には曲げ角度が重要となりますが、この曲げ角度も母材からブランク材の取り方に大きく影響されます。
材料は、高炉メーカー(日本製鉄、JFEスチール、神戸製鋼)で作られた母材コイルをスリット加工先で、シャーリング加工を施し「3×6」「4×8」等の定尺材として購入します。
材料は圧延加工により指定の幅、厚みに製造されるため、材料には圧延方向(「ロール目」や「材料の異方性」)が有ります。
上図の事例は母材コイルに対し幅方向に定尺材の長手方向で取った場合ですが、この場合にはロール目は長手方向に直角で、短い方向に平行になります。
定尺材から3つ材料を取る場合には上図中②と③の製品は同じように曲がりますが、➀の製品はロール目が異なるため曲げ角度が変ります。具体的には、①の材料で直角に曲げる事の条件を設定した場合に②、③の部品では長手方向で曲げが開き(スプリングバック)、短手方向では曲がりすぎてしまう(スプリングゴー)の現象が発生します。この場合には材料歩留まりを考慮し3部品を取っていますが、出来る限り同一のロール目で曲げ加工が出来る様に配慮する事で曲げ加工時のスプリングバックを押える事ができます。
また、延性の低い材料(アルミ材等)を曲げた場合には曲げ部に「割れ」や「クラック」が入る事も有るため、状況により下図の様に、圧延方向に対し45度の角度を付けてブランクを取るなどの配慮も必要です。
2項で出ました、スプリングバックとスプリングゴー(インとも言う)について説明をします。
この現象は下図に示す様に、曲げ加工時の角度θに対し金型がワークから離れた時に戻る、曲げが開く現象をスプリングバック、逆に金型がワークから離れた時に更に曲げ角度がきつくなる、曲げが狭まる現象をスプリングゴーと呼びます。
下図左の荷重-伸び変形曲線図は鉄の物を示していますが、降伏点を境に弾性変形域、塑性変形域に分かれ降伏点を超えたF1荷重を母材に加えるとL1の変形量となり、荷重を取り除いた時の値がL2になりL1からL2を引いた量がスプリングバックの値となります。
材料を曲げる際の圧力の掛け方により曲げ角度を維持、更に曲がりすぎる状態が起きます。
これをスプリングゴーといいます。
板金加工における曲げ加工では主に下図に様な加工方法で曲げを行います。
下図左のパーシャルベンディングでは被加工材は曲げダイスに密着することなく、曲げが完了する事からパーシャル(Partial)「部分的な」や「一部分の」と言った意味で、パンチ先端とダイスの肩の部分の3点で支えられ曲げが完了した状態になります。この状態で加工するため、30~120°で曲げる事が多い曲げ加工になります。曲げの精度はボトミング、コイニング曲げと比較すると低くバラツキ易い加工方法になります。
下図中央は、ボトミング加工で、被加工材を介してパンチ、材料、ダイスが密着状態で曲げ加工を行う工法となります。ボトム(bottom)は動詞形で「底に届く」という意味で、製造現場では「底突き」等で呼ばれます。この工法の特徴は比較的小さな荷重で精度よく、また、バラツキも少なく曲げる事ができ、一般的に一番よく用いられる工法になります。
下図右側の加工工法がコイニング加工になります。プレス加工にもあります「硬貨」を成形する工法であり、材料にパンチを喰い込ませることで、部分的に圧縮し成形するため、ボトミング加工より更に精度よく、バラツキが少ない曲げ加工を行う事ができる工法となります。但し、材料を圧縮する加工となりますので、金型の耐荷重を考慮した設定を行う必要があります。
板金加工における曲げ加工では、この3つの工法を活用しスプリングバック、スプリングゴーの状態を加味し加工条件を設定します。
曲げ加工の技術コラムでも述べました様に、曲板機は汎用機であり材質・板厚問わず様々な材料の曲げ加工を行います。そこで重要となるのが曲げ型の管理になります。曲げ加工時に高荷重を要する材料や、板厚に合わせ金型の使用を取決めしておかなければ、下図に示す様にパンチ先端部の摩耗が発生する事になります。
下図は標準形状の曲げ型ですが、金型の特定の部分を多く使用した場合には、その部分が摩耗しそれ以外の部分は比較的摩耗が少ない状態となります。の様な曲げ型で長尺の製品の曲げ加工を行うと摩耗した部分の曲げが「中ダレ」と呼ばれる、曲げの甘い状態に加工されるため、こういった現象が発生した場合には、パンチ先端の研磨によりR形状を整える必要があります。
また、板厚が4.5~12㎜相当の厚板をR10程度の曲げ型で曲げた場合には、下図右側の様な形状に摩耗が進みます。
これは曲げ加工中に材料が特に擦れて部分的に摩耗が進むケースになります。
この様な状態で曲げ加工を行った製品は、パンチ先端部の当たった部分で局部的に凹むため、使用中に応力が集中し割れる事が有るため、加工前にパンチの形状を確認し、必要に応じて修正した上で使用する事が必要となります。
精密板金において、曲げ加工の高精度な曲げ加工を行うためには曲げ金型の管理が重要となってきます。
板金加工で、箱曲げ形状の製品は多く有りますが、角部の合せ方でも下図の様な種類があります。合わせ形状Aは、4角をアーク溶接等で接合をする事で強度の高い容器が出来るため選択されます。この形状で、正方形であれば曲げ加工順に制約なく加工をする事ができます。しかし、長方形になると短辺側を曲げた後に長辺側を曲げる事となる事から、曲げの順序を考慮した段取りとなります。
合わせ形状Bは、端面を合わせる様に曲げる形状ですが、この形状の場合スプリングバックを考慮し内に入る側を後から曲げる段取りになります。B-1のケースでは曲げ型を長辺側、短辺側の2カ所用に段取りする必要がありますが、B-2のケースでは長辺曲げの金型長さで段取りが出来れば短辺側を先に曲げた後に長辺側を曲げる事ができるため、金型の段取り時間は単純に半分で済みます。製品の最終形状と機能が満足すれば、製品形状を工夫する事で曲げ加工の生産効率を高める事が可能となりますので、自由度の高い板金の曲げ加工では事前検討が重要となります。
お客様から受領した図面には、必要な機能寸法と機能を満足する為の寸法公差も指示されています。板金加工における曲げ精度はバックゲージからの距離で決まりますから、2回以上の曲げを含んだ曲げ加工を行えば寸法精度も悪くなります。そこで、加工者は、図面を確認し重要寸法が満足できる曲げ順の設定をします。
下図に示す事例は、同じハット曲げ部品ですが、製品機能として上図は高さ寸法が重視された設計で、下図は内幅寸法を重視した設計となっています。図面の右側には、それぞれの設計に合わせた曲げ加工時の加工工程を記載しています。曲げ高さを重視されている場合には、曲げ寸法50±0.1が確保できるように製品を反転し、1曲げの面をバックゲージに当て曲げています。この場合には、1工程目の曲げ角度が50±0.1の寸法に影響するため90度にしっかりと曲げる必要があります。
内幅寸法を重視した図面(下図)では、最終工程で100±0.2の寸法が確保できるように、「この字形状」に曲げ加工し、1工程目の曲げ面を基準に3工程目の曲げを行い、製品のZ曲げの面を基準に100±0.2の曲げ加工の設定を行います。この様に同じ形状の製品でも必要な寸法精度に合わせて曲げ加工の順序を設定する事が必要となります。
製品の安全対策や強度アップを図る目的として、板金部品の端面部に「ヘミング曲げ」を施し対策する事が有ります。一般的には「ヘミング曲げ」は「あざ折り」「密着曲げ」「つぶし曲げ」などとも呼ばれますが、どれも同じ加工内容となります。
ヘミング曲げの工程は①Ⅴ曲げ(30度or45度)を行い、②ヘミング曲げの2工程となります。ブレーキ曲げの段取りとしては、2工程タイプとダブルデッキタイプに分けられ、2工程の場合には1台の曲板機に2工程分の金型を取付けステップベンドで加工します。1台のダイスでヘミング加工を行う事ができるダイスが、ダブルデッキダイスになります。上段でⅤ曲げを行い下段でヘミング曲げを行う事ができるため、曲板機に取付ける金型は1面で済み、段取り時間の改善の図る事ができます。
板金加工の曲げ加工に使用する曲板機(ベンディングマシーン)の紹介をします。
下写真は当社が使用する曲板機と各部の名称を記載したものになります。
近年はサーボモーターの普及に伴い曲板機もサーボモーターを搭載し高精度な曲げ加工を可能とする様になってきました。
過去に使用していました油圧式の曲板機の場合、ダイス側が上昇し曲げ加工を行うタイプであり、これがサーボ化された事で、パンチ側が下降し曲げ加工を行う様に変わったため、作業者はかなり戸惑っていたことを記憶しています。
現在ではスライドが下降するタイプが主流となり、長尺製品を曲げる上で、全域の曲げ精度の向上を図るクラウニング機構(ベッド中央部を反らせ荷重をコントロールする機構)のダイス側への搭載や、曲げの情報を共有する機能、金型の自動投入機能、曲げ加工時の曲げ角度を自動計測し、次加工品の曲げ加工精度に反映する機能など、最新設備は最新技術を投入し作業者の負担を軽減する様に開発されてきています。
今回は、板金加工における曲げ加工について解説しました。
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