プレス加工において、圧縮加工と表現されると全ての加工の総称のように聞こえますがここでいう圧縮加工は、「冷間鍛造」に区分される加工内容に該当します。冷間鍛造に関する全般的な内容は「塑性流動成形加工の一種、冷間鍛造加工とは?」の技術コラムにて説明しておりますので興味のある方はご覧ください。
>>塑性流動成型加工の一種、冷間鍛造加工とは?の記事はこちら
本コラムでは、もう一歩踏み込んだ加工内容毎に紹介をしたいと思います。
冷間鍛造は、素材を加熱して成形する熱間、温間鍛造加工より加工精度が高く、後工程の加工を必要としないネットシェイプ、ニアネットシェイプを可能とする工法になります。更に、冷間鍛造でも、塊状の素材を加工するものと、板状の素材を加工するものに分かれ、当社では後者の加工方法を活用する「板鍛造加工工法」を用い製品加工を行っております。
板鍛造を用いた各種圧縮加工方法の技術コラムを紹介していきたいと思います。
コイニングは比較的軟質の材料を使い、閉塞した金型に非常に高い圧力を掛けて、繊細な模様が刻まれた平面を有する貨幣やメダルなどを製造する方法です。(COIN(コイン)⇒COINING(コイニング))
コイニング加工に類似した加工に刻印加工が有ります。コイニング加工は、プレス加工を行う事で材料を盛り上げ成形しますが、刻印加工は、部分的に素材を押す事で凹ませて加工を行います。
下図に刻印パンチとコイニングパンチの略図を示します。パンチ形状の断面を見ると刻印パンチは凸形状に成っており、素材にこの凸の形状を打込み成形をします。この為、プレス加工時に必要な荷重は比較的低い荷重で加工を行う事ができます。これに比べ、コイニング加工は、広い面を押す事で材料の流動を促し成形するため刻印加工よりも高い荷重が必要となります。
コイニング加工時には材料がパンチの細部まで入り成形されますので、パンチの加工状態が非常に重要となります。コイニングパンチの成形される面には、転写される形状や模様を彫り込みますが、彫り込んだ面に沿って材料が流れ成形されますので、パンチ表面の面粗度が悪いと材料の流れを阻害しきれいなコイニング形状を得ることができません。また、加工時の圧力が高い為、微細な傷などがパンチ表面に有ると、その傷を基点にクラックが入り、最悪の場合にはパンチの破損に至る事も有ります。
コイニング加工の加工事例は、皆さんが使われる硬貨が有ります。
下の写真は「新500円硬貨」ですが、偽造硬貨に対する防止処置として「JAPAN」の刻印や「500YEN」の刻印が刻まれています。「P」に成形された文字の大きさは約0.3㎜角に収まるサイズでその精巧さが良くわかります。また、500円コインの「500」の「0」の中には見る角度で、反射光の明暗の差により浮き出る「500YEN」「JAPAN」の文字は成形面に傾斜を設けて成形されており、非常に高度な加工技術が用いられています。更に小さな文字で「NIPPON」の隠し文字が有りますので興味ある方は顕微鏡で探してみると良いかと思います
コイニング加工で検索すると良く出てくるのが「ブレーキ曲げ工法」の一つとして良く出来てきますので、ここで少し紹介しておきます。
「ブレーキ曲げ」は、一般的に曲板機(長尺材も曲げが出来る設備)を用い曲げる方法を言います。この設備は曲げ加工に特化した汎用機で、上下一対となったパンチダイスを、加工する「長さ」と「曲げ形状」に合わせ設備に取付け曲げ加工を行います。
ブレーキ曲げの加工状態により、「パーシャルベンディング」「ボトミング」「コイニング」の3つが有り、加工圧の掛け方でそれぞれ加工の仕上がり状態が変ります。
①パーシャルベンディング
少ない加工圧で曲げ角度の範囲を自由に変える事ができます。しかし、曲げの精度は不安定でバラツキ易い加工方法です。
②ボトミング
「底押し」「底突き」と呼ばれる加工方法で、比較的低い加工圧で良好な曲げ精度を得ることができます。
③コイニング
パンチ先端が素材に食い込むまで加工圧を掛けて成形します。これにより極めて正確な曲げ精度で加工を行う事ができます。一般的にはボトミングの約5~8倍の加工力が必要と言われています。
ポンチング加工は鉄骨や鉄板に「ポンチ」と「ウス(ダイスに相当)」を用い型抜き、半抜き加工などを行う加工を言います。
現在ではレーザ複合機等を使用し穴あけを行う様になってきていますのでポンチング加工自体が少なくなってきていますが、「少しだけ型抜きしたい」と言った時には便利な加工方法です。
また、ポンチング加工には、「ポンチングマシン」と呼ばれる専用の加工設備を使用し加工を行いますが、国内で設備を製造していたメーカーも既に廃版としている様です。
下の写真がポンチングマシンで、1台で「穴あけ」「シャーリング」「アングルカット」「切り欠き」「丸棒、パイプの切断」の5つの加工が1台の加工機で出来る物が多く、鉄骨加工を行う現場で多く活躍しています。
刻印加工は金属素材へ、マーキングする方法です。金型に刻印を埋め込み加工時に刻印する方法や、手打ちでハンマーを用い打刻していく方法などが有ります。刻印加工を行う目的には、製造年月日の表示、販売元の表示、部品の位置決め等が一般的な用い方になると思います。
金型に埋め込み刻印を行う場合には、加工時の下死点高さに調整が必要な工程に設けると刻印の印面を潰してしまうため、避けた方が良いと考えます。
金属の平面に刻印を打込むことから、刻印の先端形状は下図のような形状をしている。一般的には刃刻刻印が活用されるが、先端がフラットなベタ刻印、先端がR形状となったローストレス刻印等もあり、特に内部圧力が高い原子力用等にはこの刻印もちいられる。
今回は、プレス加工:圧縮加工(冷間鍛造‐コイニング・ポンチング・刻印加工)の特徴ついて解説しました。
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