技術コラム「絞り加工のメリット・デメリット」でプレス加工における絞り加工の紹介をしましたが、今回の技術コラムでは、「絞り加工と張出し加工の違い」について紹介していきたいと思います。
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下図に絞り加工と張出し加工の略図を示していますが、
絞り加工は前回までにも説明したように、プレス加工時に材料は金型内に流れ込み成形されます、よって、絞り加工時には材料の板厚の減肉が少ない状態で成形されます。
張出し加工は、フランジ部が固定され材料の延びにより成形されるため、成形部の板厚は薄くなります。張出し加工については、金型の構造や加工条件も重要ですが、特に材料特性に依存する所が大きい加工方法であるといえます。
下図に全体を張出し加工した事例を示します、この事例では成形部はドーム形状に成形されており、ドーム部の周囲には材料の流れ込みを防止するリブ形状を設け成形を行っています。広範囲にわたって板を張出す加工で、大曲率半径面等の浅い張出しでは、材料の延び限界より形状精度が成形限界を左右します。
材料の一部を張出す加工で、大きな平面を有する部品などで、エンボス加工を施し全体の剛性を上げる場合に必要な場所に配置する事が有ります。このエンボス加工の形状も、丸形状やビード形状等があり製品設計に応じて配置されます。
バルジ加工は主にパイプ材を使用した張出し加工になります。下図のように両面から加圧する事で、内圧をかけ、ダイス形状にワークを押付ける事で成形を行う工法になります。内圧をかける場合には、加工油を封入し加工する液圧式と弾性のあるゴムなどを使用し成形する方法があります。
油圧によるバルジ成形を「ハイドロフォーミング」と呼び、複雑な形状をした自動車用の吸気・排気マニホールドに使用される事が有ります。
張出し加工における材料の加工性に左右される所が大きい加工方法です。一般的に、材料の特性はエリクセン試験(JIS Z2247)により評価をする事ができますが、材料を引張り試験により求まる材料特性値からも判断する事ができます。
張出し加工は、被加工材の伸びとひずみ分布の一様性により限界が決まります。また、先の「プレス加工:深絞り加工の基礎、知っておくべき数値」でも紹介しましたが、全伸び、加工硬化係数n値は数値が大きいほど限界深さは増加します。このn値が大きい事は一様伸びが大きい事を意味します。
材料の異方性を示すr値(ランクフォード値)もひずみの一様性に影響を与える要素となります。
下に示す(a)ひずみ分布はr値の値が大きい材料と小さい材料で加工速度を変えて成形した場合の加工中心から距離と歪の関係を示したものです。プレス加工速度の違いによりひずみの発生状態が異なる事が解ります。
また、(b)張出し限界深さは、加工速度を低速、高速に変更した時のr値に対する張出し限界深さを検証したものです。r値が大きい材料(絞りやすい材料)では高速で加工した方が張出し成形の限界が高く、r値の小さい材料(絞りにくい材料)では、低速で加工したほうが張出し成形の限界が高くなる事が解ります。この様に材料の特性を良く理解した上で、被加工材に合わせた金型設計と加工条件の設定を行う必要があります。
今回は、張出し加工と絞り加工の違いについて解説しました。
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