板金加工:電子ビーム溶接について
本記事では、板金加工の溶接に含まれる「電子ビーム溶接」の概要についてご紹介しています。ぜひご覧ください。
電子ビーム溶接は、レーザ溶接の約10倍、アーク溶接の約5000倍の高エネルギー密度により、加工を可能としています。また、焦点深度も深い事から溶接においても深い溶込みを得る事ができます。但し、電子ビーム溶接は真空中で溶接を行う必要が有るため、加工室内を真空にする為の準備時間が必要な事と、被加工品の大きさについても制約が発生します。
電子ビーム溶接の特徴とレーザ溶接の特徴を踏まえながら説明をしていきたいと思います。
下図は、電子ビーム溶接機の構造と熱電子の放出から溶接までのステップを示しています。下図では示していませんが、電子ビームを作るための電源や加工室内を真空にするためのポンプ類は合わせて必要となります。電源から高出力を供給することでカソード(フィラメントとも呼びます)が加熱され電子が放出されます。カソードとアノードの間で加速電圧を印可することで熱電子が加速されます。電子ビーム溶接機における電子銃に該当するのがカソードからアノードまでの構成部品を示します。
加速された熱電子は、レンズコイル(収束コイルとも呼びます)の磁力線によりビームの焦点距離に制御されます。また、レンズコイルの直下にある偏向コイルは、磁束密度を変化させることにより限られた範囲では有りますが、電子ビームの照射位置の制御を行う事ができます。また、レーザ溶接でもガルバノスキャナーヘッド行っているレーザ光のウォブルコントロールも、偏向コイルの制御により行う事ができます。レンズコイルによる焦点距離、偏向コイルによる照射位置、それぞれの制御をされた電子ビームは被加工材(ワーク)衝突します。すると電子ビームの持つ運動エネルギーが熱エネルギーに変換され、この熱エネルギーによりワークは溶融し溶接が行われます。
レーザ溶接ではレーザ光を励起し増幅する事で高いエネルギーのビームを作り、ワークにレーザ光を照射する事で、吸収・溶融が行われ溶接が出来ます。溶融するための媒体が、電子ビーム、レーザ光で異なりますが照射され溶融しキーホールが形成される事で接合される形態は近似していると考えます。
電子ビーム溶接の特徴に上げられるのが深い溶込みです。下図は出力を一定として、加工環境の真空度合いを変えた時の溶込み深さを示しています。高真空状態(左側)では溶込み深さは約60㎜近くまで入りますが、低真空、低気圧、大気圧(1.0×10⁵Pa)になると約12㎜程度になります。電子銃は、1.3×10⁻³Pa以上の高真空中で作動します。このため加工雰囲気も高真空である方が相性が良く、低真空から大気圧に近くなるにつれ、電子銃から発射された電子ビームは空気中の分子と衝突しエネルギーを奪われたり、方向が変ったりするため必要なエネルギーがワークまで届かない事になり、これにより溶込み深さが変化します。
電子ビーム溶接のメリットは先にも述べましたように、深い溶込みと、エネルギー変換効率が約85%と非常に高い事にあります。また、設備の高出力化が早期から行われ40㎾級以上の設備も多く存在します。一般的にファイバーレーザ溶接機のエネルギー変換効率が30~40%と言われていますので、消費電力の押えた溶接が可能であると言えます。また、電子銃を固定し、加工台車を移動させて加工するものが大半ですが、中には電子銃を自在に稼働させて溶接を行う設備も開発が行われ日々進歩している様です。
一方、電子ビーム溶接のデメリットは、真空下で加工する必要が有るため、真空室を設ける必要が有ります。このため、加工するワークのサイズが制約されることと、加工室を真空にする為の時間が必要となります。このため大量生産品では無く、多品種少量で高付加価値な物や、比較的小さな部品で一度に大量の部品を加工室に投入し溶接を行うものが対象となると考えます。
また、加工するワークについても、磁性を持った部品の加工では電子ビームが偏向されるため加工が出来ない事も有るためワークの材質への配慮も必要となります。
電子ビーム溶接とレーザ溶接では一長一短が有りますので、設計される部品の品質要求や精度、生産性を考慮し選定する必要が有ると考えます。
今回は、板金加工における電子ビーム溶接について解説しました。
弊社では電子ビーム溶接設備は保有しておらず、社内での実施はできません。電子ビーム溶接の特性やメリットを踏まえつつ、弊社ではレーザ溶接やTIG溶接など、同等の品質を実現できる代替工法を提案しています。
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