板金加工:スタッド溶接について
本記事では、板金加工における「スタッド溶接」についてご紹介しています。ぜひご覧ください。
アーク溶接を行う上で、溶接電流と溶接速度の関係で、溶接ビードの状態が適正な形状から、溶込み不足、アンダーカット、溶落ちなどが発生する事を説明しました。アーク溶接を行う際には、設備面では「溶接電流」、「アーク電圧」、「シールドガス種類」、「シールドガス流量」を設定する必要があります。また、溶接施工時には、「ワイヤーの突き出し量」となるトーチと母材迄の距離、「狙いの位置」、「トーチの送り速度」、「送り角度」や「送り方向」などがあり、それぞれの条件が最適な状態となって初めて適正な溶接ビードを得る事ができます。
アーク溶接を行う上での溶接電流とアーク電圧の関係は下図の様に表されます。通常では設備の溶接電流を設定するとほぼ自動で、電圧が設定されますが、電流に対して電圧の適正な設定範囲を知っている事で加工条件の調節を図る事ができるため、理解している事で更に良好な加工条件を設定する事ができます。
下図では横軸に溶接電流、縦軸にアーク電圧とした場合の溶滴移行の状態範囲とアーク安定範囲、べリードアーク条件域が記載しています。それぞれの溶接電流の値に対し、アーク電圧には設定幅があり200A以下の小電流帯では2~3Vの調整幅しかありませんが、250Aを超えるとアーク電圧の設定幅の比較的大きくなる事が分かります。また、250Aから350Aの領域でアーク電圧を低く設定するとべリードアーク条件域となります。
CO2溶接における溶接電流・アーク電圧・溶滴移行状態のグラフに記載している200A、300A時のアーク電圧を変更する事でどの様なビード状態を得る事が出来るかを下図のアーク電圧の設定と溶接ビード形態図に示します。
溶接電流の200Aは溶滴の移行は短絡移行の領域に有りますが、アーク電圧を27Vと高く設定するとアークが不安定となり、ビード形状も不良域となります。溶接施工時のスパッタは大粒で過多となり溶融金属がビード中央部に寄る傾向となることで、アンダーカットが発生しやすい状態となります。アーク電圧を20~24Vに下げた設定にされるとアークは安定し形成される溶接ビードも良好な形状となります。更にアーク電圧を低く設定するとアーク長が短くなり短絡回数とスパッタが増加し溶接ビードの形状も凸型になります。
300Aの溶接電流の設定でも高電圧の34V以上ではアークは不安定となりビード形状も不良域となりますアーク電圧を下げ34~26Vの設定が最も良好なアークを得る事ができ、溶接ビードの形状も良好な物を得る事ができます。大電流域でアーク電圧を下げ26~23Vに設定していくとべリードアーク(埋もれアーク)条件域となります。更にアーク電圧を下げると200Aの低電圧領域と同様の現象を発生します。
べリードアーク条件域はアークが集中しやすいCO2溶接に見られる現象で、溶接加工時に板厚内でアークが発生する現象となります。べリードアーク溶接時の状態を下図に示します。一般的なアーク溶接では、溶込みは浅く板厚が厚い場合には複数回の積層を行い接合する様になります。べリードアーク(埋もれアーク)条件ではアークの発生は母材の中で行われるため、深い溶込みが得られる反面、電気の特性としてアークが最短距離の所で短絡するため安定しません、この課題は溶接機メーカーでべリードアーク条件域を安定し加工できる設備が開発され実用化されています。
溶接時のトーチ設定のトーチ前後角、トーチ傾斜角、トーチ狙い位置の3つが主要3要素になります。その中でも溶接ビードの形状に大きく影響するトーチ前後角とトーチ狙い位置について説明をしたいと思います。
トーチ前後角で加工した場合の加工状態と施行される溶接ビードの形状を下図に示します。下図左が前進法(前進角)での加工状態となります。母材に対して10~20°の角度を保ちトーチを押していくように溶接をしていきます。前進法ではアークがワイヤーよりも先に有るため、母材をアークが予熱するため溶融金属が凝固する時の温度勾配が緩やかになり、溶接ビードの余盛は低くフラットな状態で形成されます。また、アークにはアーク力という電磁圧力が作用しており、これによるスパッタが前方に発生します。
下図右側が後退法(後退角)の加工状態となります。トーチの母材に対する角度は10~20°と前進角と同じですが、トーチを引いていくように溶接していきます。この時、アークはワイヤーよりも後方に位置し溶接ビードに当たる様になり、前進法の様に母材の余熱がなくいきなり溶接ビードの形成となるためビード幅が狭く余盛も高い形状となります。溶接施工時のスパッタの発生も有りますが溶融金属に吸収されやすく溶接ビードの周辺に付くことが少ないと言えます。また、後退法の特徴として溶融金属が先行しないことで深い溶込みを得やすく、この特徴を活かして積層溶接の初層1パス目を後退法で溶接を行い、確実に貫通溶接が出来る様に施工方法を取られる場合もあります。
前進法・後退法で溶接を行う場合のトーチ角度は共に20~30°を最大角度とすると良好な溶接を行う事ができます。この角度を超え溶接を行うとともにスパッタの増加の要因となります。
溶接を行う上で母材に対しトーチの狙い位置は、母材への溶込み深さや溶接脚長を得る上で重要なポイントとなります。下図は水平すみ肉溶接を行う上での狙い位置を示したものですが、下図左は組合わせる同じ板厚で、溶接の脚長5㎜以下で施工する場合になります。この場合には2つの部品の交わったすみ部を狙い加工を行います。溶接電流も250A以下で施工する場合で、この加工条件で施工すると溶接ビードの脚長は縦横ともに均等な状態で溶接を行う事ができます。下図右側の例は、2つの母材の板厚が異なり、上側の材料の板厚が薄く下側の板厚が厚い場合になります。この様な組合せで脚長5㎜以上を狙い場合には、溶接電流を250A以上に設定するため、2部品の交わったすみ部に狙いを持っていくと薄板側の材料がアークの熱により溶落ちアンダーカットが発生する事があります。そこで、この様な場合には2つの部品の交わった位置から1~2㎜程度離した位置を狙う事で高電流下でも接合を行う事が出来ます。この場合の溶接ビードの状態は狙いを移動した側に脚長が長く、縦側の脚長は短くなりますが、それぞれの母材への溶込みは、ほぼ同じ様に得る事ができます。
筆者の経験でも溶接位置のバラツキが生じる事が有りました。溶接ロボットを使用した溶接作業で、開始時に設備点検、治具点検、溶接位置の確認を行い生産を開始したが、加工途中で溶接ビードが位置がバラツク現象が発生しました。この際に、設備、加工プログラム、治具には異常がなく発生当初、原因の特定が出来ず「不良品の山」が出来た事を記憶しています。継続し調査したところ、トーチ先端のコンタクトチップの摩耗により狙い位置がバラツクことを突き止め定期的な交換をする事で不良発生は無くなりました。作業者が手作業で溶接を行う場合には、常に溶接位置を調整しながら溶接を行うため問題が発生しずらく、大きく溶接位置がズレる場合にはコンタクトチップの摩耗に気づくと思いますが、溶接ロボットを用いた場合には異常に気付きにくいものです。
問題が発生すると部品や治具、設備の要因を確認しますが、常にワイヤーと接触している部品の定期的なメンテナンスが問題となる事も有るため、立上げ期間で如何に問題抽出と対策を行うかが重要となります。
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