板金加工:高エネルギービーム溶接
本記事では、板金加工の溶接に含まれる「高エネルギービーム溶接」の概要についてご紹介しています。ぜひご覧ください。
溶融接合に分類される接合法の中で、近年に実用化が行われた溶接法に「高エネルギービーム溶接」があります。この溶接法は20世紀後半に登場し、2つの熱源で分けられ「電子ビーム溶接」と「レーザビーム溶接(以下レーザ溶接と呼びます)」になります。それぞれの接合方法の具体的な内容に入る前に、まず接合方法の特徴について述べていきたいと思います。
電子ビーム溶接とレーザ溶接の開発初期の「出力に対する溶込み深さ」と「出力に対する装置費」のグラフを下図に示します。
電子ビーム溶接(EBW)では80㎾時に約220㎜の溶込み深さが実験により得られており、厚肉大型構造物を製造する重工業分野への活用が図られるようになりました、1970年代には100㎾級の大出力電子銃が開発されていましたが、被加工材が大型化すると高真空下で加工するための加工室も大型となり装置費としても高額となっていました。レーザ溶接(Laser)の1970年代における実用化は、炭酸ガスレーザ溶接が主流で出力も1㎾級の設備が産業用途に活用がされ始めました。この頃には焼入れや溶接を主体に活用され切断加工には応用事例が少ない状況でした。1970年代後半から1980年代前半にはレーザの高出力化が図られ炭酸ガスレーザで20㎾、YAGレーザで300Wの発振器が開発されました。当時レーザの高出力化が難しかったことから、厚板への対応として電子ビーム溶接、薄板への対応はレーザ溶接といった構図が出来上がったようです。レーザ切断の加工検証では、様々な物を用いて行われており「冷凍マグロ」、「干しシイタケ」、「玉ねぎ」、「食パン」で切断トライをされましたが残念ながら失敗終わり、「木材」、「紙」、「アクリル樹脂」、「布地」については切断が成功されました。
その後の設備開発では、電子ビーム溶接は高真空中の加工を如何に簡素化できるかといった視点で開発が行われ、溶接部のみを真空にする工法の開発を行われましたが実現できず、加工室の改善や真空引き時間の短縮に対する開発を進められたようです。一方のレーザ溶接においては、「高出力化」と「集光性の改善」の課題に対し開発が進められ1990年代初めには4㎾級炭酸ガスレーザ切断機で軟鋼板25㎜(切断ガス:酸素)を実現がされました。1990年代後半からYAGレーザの開発が行われ更にファイバーを用いた励起による高出力化も図られるようになってきました。
下表は、電子ビーム溶接法とレーザ溶接法の比較した一覧表になります。この一覧表は2004年当時の状況を基に作成しておりますので少し、現在よりも状況が異なります。
下表は、ビームを発生する熱源装置から被溶接材料までの7つの主要項目について比較したものになります。1項目目の熱源装置は、電子ビーム溶接法が電子を放出するフィラメントに高電圧を印可し電子を放出させ、電子銃で加速しています。一方レーザ溶接法では炭酸ガスやYAG(Y3Al5O12)ロッド(レーザ素子とも言う)をレーザ媒質とする光共発振で生成されます。2項目目の市販装置の出力範囲ですが、電子ビーム溶接法の出力範囲は3~100㎾で、レーザ溶接は炭酸ガスレーザ機で0.5~45㎾、YAGレーザ機で0.1㎾からとなっています、こちらは、発振器の増設により最大100㎾までの出力を発振する事の出来る設備も有ります。3項目目の最大溶込み能力ですが、電子ビーム溶接:150㎜(100㎾時)、炭酸ガスレーザ:30㎜(45㎾時)YAGレーザ:10㎜(6㎾時)~70㎜(100㎾時)が試験により確認されています。4項目目のビームエネルギー効率は電子ビーム溶接:ほぼ100%に対し炭酸ガスレーザ:約20%YAGレーザの場合には炭酸ガスレーザよりもやや高い効率となっています。5項目目に示す様に最大板厚は、電子ビーム溶接法が100㎜と厚い材料の接合が可能ですが、これに対しレーザ溶接法では数㎜以下と比較的板厚は薄い材料しか対応が出来ません。電子ビーム溶接は高出力化と、真空中で加工するため大気の影響を受けず厚板への対応が可能ですが、これに対し大気中で溶接するレーザ溶接法では高出力化が難しく、また、加工中にレーザビーム周辺の大気のプラズマ化や被加工材の反射などの影響を受けやすいことで厚板の溶接が難しいと言えます。6項目目は溶接の施行環境になります、電子ビーム溶接では、1.3×10-2Pa以下の高真空下で溶接を行います。フィラメントに高電圧をかけ電子を放出し電子銃で加速、溶接室で溶接します、この周辺の領域に気体が有ると正常に溶接が出来なくなります。一方レーザ溶接法では、大気中で加工を行いますが、溶接時にはシールドガスが必要となります。最後に7項目目の被加工材になりますが、電子ビーム溶接法では、磁性材(磁力を帯びている材料)や、過熱をする事で蒸気化する「亜鉛」、「マグネシウム」は溶接が出来ません。レーザ溶接法では、金属や、非金属材料全般にわたり接合が可能ですが、光を反射しやすい銅、アルミニウム材は接合が苦手な材料になります。
電子ビーム溶接法が開発された当時には、酸化がなく、深い溶込みと溶接歪が少なく高強度な溶接が可能な事から注目された接合方法ですが、高真空下で接合をするため、加工時に加工室内を真空にする加工時間と、何よりも、ワークを加工室に据付け、溶接線道りに移動させる移動ユニットがないと加工が出来ないことから大型のワークの加工が難しく、普及が進まなかった理由といわれています。後発で開発されたレーザ溶接法は、大気中で加工する事ができるため普及が進んできた接合方法ですが、大気中で加工するため、接合部の酸化防止が必要となりますし、レーザ光を反射しやすい高反射材の接合が苦手であるなどのデメリットがあり加工の内容に合わせた選定が必要となります。
アーク溶接、レーザ溶接、電子ビーム溶接の各溶接法で、突合せ継手の接合を行った場合の溶込みイメージを下図に示します。母材の厚みは6~9㎜程度をイメージしてみて頂くと解りやすいと思います。ポピュラーなアーク溶接で下図の様な溶接を行う場合には90度開先を予めとっておき溶接を行う必要があります。開先を取った部分を完全に埋めるため、溶接時にはウィビングを行い完全溶込みが出来る様に施行します。溶込みの断面を見ると溶込み範囲は最も広くなり、溶接時の熱影響部も大きくなります。その次が、レーザ溶接でレーザ溶接では開先を取ることなく溶接する事ができます。基本共付け溶接となりますので、逆にレーザ溶接では接合部には隙間が無い状態で接合されている事が必要となります。接合時にはレーザ光によりキーホールが形成され、貫通溶接となる事から入熱部と熱影響範囲は小さく高強度で低歪な接合が可能となります。レーザ溶接よりも更に極小部でキーホール溶接を行う事ができる溶接方法が、電子ビーム溶接となります。レーザ溶接と同様に接合部には隙間が無い状態が必要となります。
電子ビーム溶接の活用は、真空中で溶接を行うため、大気中の不純物を巻き込まず溶接部に欠損が少ない事から、気密性を必要とする圧力容器や、自動車用のギア部品の接合などが代表的な活用例とされています。また航空・宇宙などの産業への活用もされています。高真空の加工室内で加工をするため、多品種少量、高付加価値商品への活用が多くみられます。
レーザ溶接も電子ビーム溶接と同じような接合特性を持っている事から同じような活用が行われていますが、レーザ溶接は大気中で施工が出来るため適用範囲が広がります。圧力容器接合や、ステンレス材の接合による活用が図られています。カーボンニュートラルに必要な電池パックやケース等の接合についてもレーザ溶接が活用され、自動車の電動化では、モーターのコイルの接合など非鉄関係の接合にも活用がされています。また、近年注目されている金属積層造形(Additive Manufacturing)でも粉末金属を溶かし積み上げていく媒体としてレーザ光を活用するなど、活用の範囲が多岐にわたる様になってきました。この積層造形の技術は、エンジンのシリンダーヘッドシートバルブ(吸排気バルブとシリンダーヘッドを密着させるための座面)にも活用されています。
下図はレーザ溶接を用いた加工分野を分析したもので、縦軸にレーザの出力加工内容、横軸にワークのサイズにした場合の加工内容がどの位置にあるかを設定したものです。金属材、樹脂、ガラスなどの様々な材料に適用され、切断、穴開け、溶接、マーキング、スクライビングなどの加工が可能となります。今後更に発展を期待される加工工法と期待されています。
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