ガスシールドアーク溶接にはシールドガスの種類ごとに「CO2溶接」「MAG溶接」「MIG溶接」に分かれます。この溶接は溶極式溶接工法に当たり、溶接ワイヤー(溶加材)からアークが発生し、これと同時に溶接ワイヤーが溶融・母材に移行する事で接合していきます。溶極式溶接工法では溶接を行っている間は溶接ワイヤーを自動供給しており、ここから「半自動溶接」とも呼ばれています。半自動溶接があるなら「全自動」、もしくは「自動溶接」もあるのか?となりますが、こちらは産業用ロボットに溶接装置を搭載し製品の溶接線をプログラムする事で自動溶接を行う事ができる「溶接ロボット」が該当します。
シールドガスの機能は大気中の酸素や窒素などが溶接中の溶融金属と結びつかない様に遮断するのが目的でり、シールドガスの成分と被加工材の材質により接合の可否発生しますので、目的に有った選定が必要となります。MIG溶接、MAG溶接のシールドガスの組成と被加工材の組合せはアーク溶接の技術コラムに記載してので興味のある方はご確認ください。また、CO2溶接で接合出来る被加工材の記載は有りませんが、CO2溶接で接合が可能な材質は鉄鋼材や低合金鋼に限られています。
ガスシールドアーク溶接機の構成を下図に示します。溶接電源からケーブルを介してトーチへの溶接をする為の電気を供給します。また、このケーブルに溶接ワイヤー(溶加材)とシールドガスを通し溶接トーチ先端から供給する事で、被加工材の接合を可能としています。下図中左の写真が溶接機の全体写真となりますが、溶接電源から溶接を施工する場所まで距離が離れている場合に、溶接条件の変更を容易にできる様にリモコンが取付けられています。
ガスシールドアーク溶接では施工する材質に合わせ、溶接ワイヤーやシールドガスの種類を変更しますが、溶接機については変更せずに行う事ができます。
溶接を行う上で、溶接条件やシールドガスの流量などが注目されますが、設備上でも溶接を安定して行う上で注意を必要とするものが有ります。特に、溶接ワイヤーを安定して供給する上でワイヤー供給装置の供給駆動部の部品が摩耗していないか確認しておく必要があります。ローラーなどの駆動部品が摩耗していると、溶接ワイヤーが安定して送給されない事やワイヤー表面に傷をつけてしまう事があり、安定した溶接が出来なくなります。作業者が手溶接を行う場合にはワイヤのーの送りが不安定となる事で気が付きやすいのですが、溶接ロボットでの加工時に安定した送給が行われないと溶接ビード形状が不安定となるなど、溶接不良が発生する事となります。また、溶接ワイヤーの供給経路にはトーチケーブル内のコンジットケーブルと呼ばれる溶接ワイヤーを安定して供給する為のチューブがあり、このコンジットケーブルが折れ曲がりや摩耗が有ると溶接ワイヤーが引掛り供給が不安定となります。トーチ先端部にはコンタクトチップが取付けられており、このチップの内径が摩耗する事で溶接位置が変化し溶接位置がズレる事が有るため、定期的な交換が必要となります。
溶極式溶接工法では溶接ワイヤーの安定した供給が必須であり、始業時の点検としてワイヤー供給経路の点検も必要となります。
溶極式溶接工法では、溶接ワイヤー(溶加材)が溶解し母材へ移行する事で接合が出来ます。この溶接ワイヤーが溶け滴(しずく)状になった状態を「溶滴」と呼びます。溶接をしていくと、この溶滴の成長・離脱・母材へ移行により接合が出来ます。この溶滴移行の状態には主に4種類ありますので、溶滴移行についてはこの後に説明したいと思います。
溶滴移行は、使用するシールドガスの種類である炭酸ガス系とアルゴンガス系で移行状態が異なります。下図の「シールドガスと溶滴移行の形態」で、先に説明したいと思います。
炭酸ガス(CO2)系を使用する溶接は、CO2溶接、MAG溶接が該当します。炭酸ガス系のシールドガスの場合には、アーク放電が発生すると、この発生熱によりCO2ガスが一酸化炭素(CO)と酸素(O)に解離(熱により分解されること)されることで、多量の熱を奪い、このためアークは強い冷却作用を受ける事になります。これを「熱的ピンチ効果」「熱的ピンチ力」(以降「熱的ピンチ力」とします)と呼び、熱的ピンチ力が作用するとアークは収縮し、溶滴の下部に集中する事となります。アークの熱により溶滴が成長すると、溶滴はアークによる強い反力を受けてワイヤー方向に押上げられます。溶滴の押上げ作用は溶接電流が大電流域で著しくなり、その結果、溶滴のサイズも大きくなり大粒で多量のスパッタが発生しやすいグロビュール移行(反発移行・ドロップ移行)となります。
アルゴンガス系はMIG溶接に使用されます。アルゴンガスは不活性でありアークの熱による解離の発生がなく、熱放散が比較的少ないことから熱的ピンチ力の影響を受けにくいと言えます。この事から成長する溶滴へのアークの反力も少なくワイヤー側への押上げ作用も分散されます。これにより電磁ピンチ力が有効に作用しワイヤー端からスムーズに溶滴は離脱し、更にプラズマ気流による摩擦力で引き延ばされ安定した移行が行われる。この様な移行形態がスプレー移行と呼ばれます。このスプレー移行はMAG、MIG溶接の大電流領域に限られた溶滴移行現象となります。
シールドガスの種類による溶滴移行形態が異なる事を説明してきましたが、発生するアークの状態が、炭酸ガス系では熱ピンチ力の影響により収縮する事で、母材へのアークの照射範囲が狭くなり比較的深い溶込みが得られると言えます。また、アルゴンガス系でシールドガスが不活性である事から熱ピンチ力の影響を受けにくく、アークの発生範囲は比較的広く、溶込みは炭酸ガスに比べ浅くな傾向にありますので、この様な状態を理解した上で溶接条件の設定を行う必要があります。
溶滴移行の形態
溶滴移行の形態を下図に示します。下図左は、横軸にアルゴンガスと炭酸ガスの混合比率とし、縦軸に溶接電流とした時の溶滴移行の領域を示したものになります。また、下図右は、各溶滴移行の状態を示したものになります。
左図には記載していませんが、小電流域では、MAG溶接、MIG溶接のいずれの溶接法においても、右図の「A、短絡移行」の形態となります。この移行の特徴は、ワイヤー端に形成された小粒の溶滴が溶融池へ接触(短絡)する短絡期間とそれが解放されてアークが発生する期間とを比較的短い周期(80~120回/秒)で交互に繰り返す移行形態になります。
炭酸ガスの混合比率が30%以上の領域で、且つ小電流域では短絡移行、中・大電流域ではグロビュール移行の領域となります。MAG溶接において炭酸ガスの混合比率が30%以上で中電流域となるとアークの押上げ作用が働く「B、グロビュール移行(反発移行)」の現象が発生します。この移行の領域では、溶滴は不規則・不安定な挙動を示し、また、大粒の溶滴による多量のスパッタが発生します。
炭酸ガスのの混合比率が25%以下のシールドガスを用いるMAG溶接やMIG溶接の場合には、中電流域での溶滴移行は、「C、グロビュール移行(ドロップ移行)」となります。このドロップ移行もグロビュール移行に分類され、ワイヤー端にワイヤー径よりも大きな溶滴が形成されるが溶滴移行の状態はスムーズでスパッタの発生などは比較的少ない状態です。
上記の状態から更に溶接電流を大電流域に設定すると、「D、スプレー移行」の溶滴移行となります。この状態では電磁ピンチ力が強力となり、ワイヤーの先端部が先鋭化され形成された溶滴は、溶融池と短絡することなく溶融池へ移行するため、スパッタの発生はほとんどない状態となります。
溶接ビード形成に及ぼす溶接電流と溶接速度の一般的な関係を下図に示します。溶接電流が小さく溶接速度が高い領域Aでは母材への十分な入熱が加えられず溶込み不足が発生します。反対に溶接電流が大きく、溶接速度が低い領域Bの場合には入熱が過大となり、溶落ちや穴あきが発生します。また、溶接電流が高く、溶接速度も高い領域Cの場合には、アークによる溶融池の掘り下げ作用が強くなり溶接ビード幅に対し、母材の溶融幅が大きくなるためアンダーカットが生じる事となります。
溶接による接合の基本は、接合部は母材強度より高い事と、接合部を基点とした破損が起きない事が求められます。このため、接合部は母材の厚み方向に対し貫通している事と、溶接ビードと母材の境界にはオーバーラップ、アンダーカット、開先残りが無い事が望まれます。これらの条件を満たす加工領域が中央部の適正ビード形領域となります。
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